教育

「全国学力・学習状況調査」は何のために行っているの?

毎年4月に6年生、中学3年生を対象に行っている「全国学力・学習状況調査」は何のために行っているの?

毎年4月中旬に行われる学力調査ですが、実はたくさんの教育データを取ることができるのです。このデータを活用して、教育施策に生かそうという試みです。

まず、文科省のHPから調査の目的を見てみましょう。

義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、

 全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析することによって、国や全ての教育委員会における教育施策の成果と課題を分析し、その改善を図る

 学校における個々の児童生徒への教育指導や学習状況の改善・充実等に役立てる

 そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する

これを読むと、この学力調査は主に、教育委員会や学校が教育の結果の1つとして「児童生徒の学力」データを取り、把握・分析→その教育施策の改善に役立てようというねらいがあります。

実際には、毎年夏休みくらいに学校に送られてくるデータには個票が入っており、プリントアウトして児童・生徒に渡しています。一応、自分の学力向上にも役立てることができると考えてよいでしょう。

しかし、大切なのは、教育を施す側(学校や教育委員会)の指導内容や教育施策の工夫・改善のためのはずです。なんと「全国学力・学習状況調査のデータ」は日本全体の科学的根拠としては最近まで活用されていなかったようですが、最近になって活用できるようになってきたそうです。(動画21分30秒頃)。

私が尊敬する教育者の中室牧子先生が、「教育に科学的根拠(エビデンス)のある政策を」というねらいで、様々な地方自治体と協力してデータを集められているようです。例えば、埼玉県が独自で行っている「埼玉県学力・学習状況調査」を用いて調査・研究を行っています。

この研究はきっと将来の日本の教育を変えてくれるものと信じています。

学校現場では、このデータをどのように活用しているのでしょうか?

毎年夏休み中には各学校に調査結果が返却されています。それをもとに、学校ごとに結果分析が行われ、研修で「これからどんなことを重視して学習指導していけばよいか」を話し合います。

自分たちで全問題を解く研修会もありましたし、正答率の低い問題だけを解く研修もありました。それで感じたことは、とにかく文章を正確に読めさえすれば、そんなに難しい問題ではないということ。

ただし、校内研修で必ずしも良い学習指導の案がでるわけではありません。全国の平均点よりもかなり下回っている学校の場合、「あぁ、読解力が足らないんだな…」「最後の方は問題を解いてすらいない、問題を解く時間が遅すぎる」など、ネガティブな意見が飛び交って終わるケースも多いです。

苦手な項目があれば、そこを強化するような学習指導改善案が出るくらいでしょうか。

いずれにせよ、学力調査は教育委員会や学校にとっては、教師施策や学習指導の工夫・改善のための材料となります。児童・生徒とっては、自分の学習理解度を把握することや得意、不得意な項目、得意、不得意な項目単元を把握したり、それに対する手立てを考えたりするよいきっかけとなります。

どうして「全国学力調査」と呼ばないのでしょうか?

それは、国語と算数以外にやっていることがあるからです。それは「質問紙調査」です。つまりアンケートです。その児童・生徒が普段どのように過ごしているのか。学習状況は、読書はどれくらいしているのか、どれくらい外遊びをしているのか、など学習とその子がおかれた環境や学習状況を把握するための質問です。

この「質問紙」と国語・算数の学習調査の結果を掛け合わせて「どんな状況の子が学習調査の結果が良いのか?」「あるいは悪いのか?」「昨年度の学習はどうだったのかな」など、2つ以上の観点でまとめるクロス集計を使って調べます。教務主任か教頭先生が「学校質問紙調査」(たしか200問くらい)に回答するので、それも併せて分析します。

公表された県別の平均点の結果を見てがっかりした人いませんか?

気にすることはありません。大丈夫です。

毎年全国学力・学習状況調査の結果が発表されると、必ず県別の平均点ランキングが公表されますよね。あれを見て、「うちの県は何かな?」と期待すると、かなり下の方…。「全く、うちの県教育委員会は何をやっているんだ!」と思ってしまいます。

でも、そんなの全く気にすることはありません。

尊敬する中村先生のベストセラー「学力の経済学」からの引用です。

全国学力・学習状況調査は、私立校も自由に参してよいことにはなっていますが、まだまだ参加校が少ないため、実質的には「日本の小・中学生の学力テストの都道府県別順位」ではなく、ほぼ「日本の公立小・中学生の学力テストの都道府県別順位」となっているのが現状なのです。

学力が高い子どものほうが私立小・中学校に通っているとすれば、公立小・中学校を主体とした比較では、私立小・中学校の在籍者比率が高い東京、神奈川、高知、奈良、京都あたりは自然と、実力よりも順位が低くなる傾向があります。その証拠に、学習塾大手の四谷大塚が集計している「全国統一小学生テスト」の県別順位を見てみると東京、神奈川などが上位になっています。こちらは、私立も組んだ調査だからです。

(中略)

子どもの学力には、遺伝や家庭の資源など、さまざまな要因が影響しています。しかし、なぜか人々は、学力というと、すぐに教員や指導法、教材などが強く影響していると考えてしまうようです。

「学力の経済学」著者 中室牧子 発行 ディスカヴァー・トゥエンティワン

つまり、県別の平均点が上位であっても、それが学校、教育委員会の手柄とは限らないということです。たまたま、遺伝的に優秀な子が多い都道府県という可能性だってありますし、勉強を妨げる誘惑が少ないのかもしれません。「その都道府県の先生たちの指導方法が優れているから子どもの学力が高い」という因果関係を示すことは難しいです。

ですから、都道府県別の平均点なんて、そんなに気にすることではありません。学校の先生たちは参考程度に考えればよいのではないでしょうか。

ただし、2学期に「学校だより」等で全国学力・学習状況調査の結果を発表する時に、気にしてほしいことがあります。それは、その学校の平均点は県あるいは全国の平均点より上かどうかということです。

もし、県や全国の平均点を下回って利用でしたら、学力が低めの学校ということですので、そこで多少勉強ができたからと言って、安心はできないと言いうことです。将来、中学受験を考えているのなら、いい塾を探し始めてもいいかもしれません。

まとめ

  1. 全国学力・学習状況調査は子どもの学力を伸ばすため、指導の工夫改善のためのデータを取っている
  2. 児童側としては、どんな項目の理解が不足しているのかチェックし、その後の家庭学習で補うためのデータとなる
  3. 都道府県別の平均点のランキングは気にすることはない
  4. 自分の子が通っている学校の学習レベルは、結果報告で分かるから参考にするとよい
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kodomokoukoushiyouze
元凡人小学校教員。長男の小学校入学を機に、勧奨退職(早期退職)。多くの子育て本、教育本から得た知識と20年超の教職経験、子育て経験から『主に10歳くらいまでの子育て世代』へ向けて『子育てや教育』に関する情報を発信していきます。
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